『庭園のレイディたち』 第2話 真夏の四十路レイディ 有川ひろ

七月といえば七夕。笹の葉さらさら軒端に短冊吊っていた少女の時代は今昔、こちとらアラフォー一男一女の母である。子供は年子で息子が小一、娘が年長さんのワンツーだ。七夕も母としてイベンターの側に回ると色々と細かい苦労が見えてくる。
思えば子供たちが幼稚園の頃である。二人とも同じ幼稚園に入れたのはもっけの幸いだったが、この園が季節の行事をかなりしっかりおやりになる園だった。立派な笹を調達し、みんなで笹飾りを作って短冊に願い事を書いて吊るし、そこまではまことによろしかったのだが、帰りに先生が仰ったことが少々余分だった。「おうちの人とも七夕飾りを作ってみましょうね~」作る! おうちでも七夕する! ってそうなるよね~。と全お迎えのママが泣いた。 思えば子供たちが幼稚園の頃である。二人とも同じ幼稚園に入れたのはもっけの幸いだったが、この園が季節の行事をかなりしっかりおやりになる園だった。立派な笹を調達し、みんなで笹飾りを作って短冊に願い事を書いて吊るし、そこまではまことによろしかったのだが、帰りに先生が仰ったことが少々余分だった。
彼女は田舎で生まれ育ったので七夕の笹は大人が裏山から適当に切ってきたものだが、こんな街中だと笹を手に入れるところからしてミッションインポッシボーなのだった。ママたちの連絡網でホームセンターに七夕用の笹が売っていると知り、慌てて駆けつけたところ乾燥してくるっくるに葉っぱが巻いた竹の枝が生花売り場のバケツに一本残っていた。この一本を買ってしまったら他のママたちが、いやいっそ売り切れていたほうが子供たちを諦めさせる方向に言いくるめられたものを、などと葛藤しながらラス一お買い上げ。短冊にはプチモンのレアカードやらアリエルの首飾りやら幼児の物欲がぶちまけられ、情緒もへったくれもないのであった。 「おうちの人とも七夕飾りを作ってみましょうね~」作る! おうちでも七夕する! ってそうなるよね~。と全お迎えのママが泣いた。彼女は田舎で生まれ育ったので七夕の笹は大人が裏山から適当に切ってきたものだが、こんな街中だと笹を手に入れるところからしてミッションインポッシボーなのだった。
それから毎年の笹は近所の花屋で予約しているが、フライングで一週間くらい前から今年も書きはじめた物欲もとい短冊は、息子は「Jリーガーになりたい」で娘は「タカラジェンヌになりたい」だった。物欲から将来の夢になったことに情緒の成長が見られますブラボー。
タカラジェンヌは先日子守を頼んだ従妹から来た。家で三時間ばかり怪我しないように見ててくれたらいいからと頼んだところ、その三時間で宝塚のDVDを観たらしい。気がつくと娘が横で釘付けになっていたようで、それから娘のお絵かきは羽根らしきものを背負った王子様とお姫様らしきもの一色である。その従妹は子供の頃に彼女が宝塚に染め上げたので、完全に親の因果が子に報いた。 ママたちの連絡網でホームセンターに七夕用の笹が売っていると知り、慌てて駆けつけたところ乾燥してくるっくるに葉っぱが巻いた竹の枝が生花売り場のバケツに一本残っていた。この一本を買ってしまったら他のママたちが、いやいっそ売り切れていたほうが子供たちを諦めさせる方向に言いくるめられたものを、などと葛藤しながらラス一お買い上げ。短冊にはプチモンのレアカードやらアリエルの首飾りやら幼児の物欲がぶちまけられ、情緒もへったくれもないのであった。
それから毎年の笹は近所の花屋で予約しているが、フライングで一週間くらい前から今年も書きはじめた物欲もとい短冊は、息子は「Jリーガーになりたい」で娘は「タカラジェンヌになりたい」だった。物欲から将来の夢になったことに情緒の成長が見られますブラボー。
絶賛子育て期間中につき、ガーデンズから電車でわずか十五分の宝塚からはめっきり遠ざかっている。息子は興味がなさそうだが、娘は大きくなったら親子観劇が果たせるか? 組カラーで親子コーデとかしちゃう?夢がタカラジェンヌならバレエの一つも習わせておくべきか? 蛙の子が蛙を生んだなら届かぬ夢かもしれないが、夢追う権利と当たって砕ける権利は誰しもあるし、習い事で続かないなら大それた夢でしたとすっきり諦めもつくだろう。 タカラジェンヌは先日子守を頼んだ従妹から来た。家で三時間ばかり怪我しないように見ててくれたらいいからと頼んだところ、その三時間で宝塚のDVDを観たらしい。気がつくと娘が横で釘付けになっていたようで、それから娘のお絵かきは羽根らしきものを背負った王子様とお姫様らしきもの一色である。その従妹は子供の頃に彼女が宝塚に染め上げたので、完全に親の因果が子に報いた。
絶賛子育て期間中につき、ガーデンズから電車でわずか十五分の宝塚からはめっきり遠ざかっている。息子は興味がなさそうだが、娘は大きくなったら親子観劇が果たせるか? 組カラーで親子コーデとかしちゃう?夢がタカラジェンヌならバレエの一つも習わせておくべきか? 蛙の子が蛙を生んだなら届かぬ夢かもしれないが、夢追う権利と当たって砕ける権利は誰しもあるし、習い事で続かないなら大それた夢でしたとすっきり諦めもつくだろう。
ガーデンズの館内はあちらこちらに七夕飾り。今年はいっちょ母も短冊を書いてみようか? 「子供たちの夢が叶いますように」なーんてね。蛙の子は蛙だろうけど、もしも叶えばめっけもんでしょう。

PROFILE

有川 ひろ

高知県生まれ。2004 年、『 塩の街 』で電撃小説大賞 大賞 を受賞しデビュー。「図書館戦争」「三匹のおっさん」シリーズをはじめ、『 阪急電車 』『 植物図鑑 』『 空飛ぶ広報室 』『 明日の子供たち 』『 旅猫リポート 』『 みとりねこ 』、エッセイ『 倒れるときは前のめり 』など著書多数。

前 康輔(まえ こうすけ)

1979年広島市出身。
写真家。高校時代から写真を撮り始める。雑誌、写真集、広告などで、ポートレイトや旅の撮影などを行うほか、個展も定期的に開催。最新作は写真集『 New 過去 』。

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