『庭園のレイディたち』 第3話 冬の初めの五十路レイディ 有川ひろ

十一月といえば……何じゃらほい?これといった歳時記があまり浮かばない谷間の月が十一月だ。七五三があるといえばあるか。しかしそれも身近に子供がいなければ無縁で、こちとら二十年前に娘の七歳の七五三を終えてからはめっきりご無沙汰のアラフィフである。
これといった歳時記が浮かばないためか、いつも立ち寄るガーデンズのエントランスもハロウィンが終わったらさっさとクリスマスにワープした。
ここは毎年立派なツリーが立つ。夫の両親が娘に贈ってきた七段飾りのひな人形を呪ってしまうくらいには狭い賃貸を経て中古の一戸建てに家移りしたが、大きなクリスマスツリーを飾れるほどには広くなく、娘がクリスマス感をねだったらツリーはここに借景しに来たものである。いつもツリーの前で娘の写真を撮っていたので、家のアルバムにはガーデンズ創業時からの毎年のツリーの記録が残っている。資料にと求められたら提供しなくもない。ちなみに今年で創業十五周年。
十五年前といえば娘はまだ小学校六年生だった。忘れもしないサンタ強制終了の年だ。強制終了のきっかけはそのころ新米社員だった姪で、クリスマス前に遊びに来たとき「お父さんとお母さんにプレゼントなに頼んだの?」とやらかしてハイそれまでよ。姪は大学でこちらに出てくるまでは田舎の大家族でジジババ育ちだったので、クリスマスの風習があまり厳密に運用されておらず、プレゼントも親が買ってくれるものだったらしい。
 娘のほうもうっすらサンタは親父では疑惑を持っていたらしく、ごまかしきれなかった。姪は「おばちゃん、ごめん!」と真っ青になり、お詫びとして娘を宝塚歌劇に招待してくれたのだが、それがきっかけでドはまりした宝塚が娘の良縁を遠ざけているような気がするので、お前もしかしてお詫びのテイで余計なことをしてくれたのでは?
しかしまあ娘も最近は合コンに精を出し、ちょっといい感じの人ができたようなできていないような、でもやっぱりできているような気もしてそこんとこどうなのかそろそろ親にも聞かせてほしい。しかしこういう問題はセンシティブなので向こうが言い出すまでは辛抱が肝心。
十五年前は娘のサンタ強制終了事件でわたわたしていたのが、今は娘の良縁問題でそわそわ。十年一日のごとしというが、十五年もまあまあそんな感じであっという間だ。
もし娘がいい人と所帯を持って子供ができたら、やはりここのクリスマスツリーが歳時記になるのだろうか。孫のサンタはいつまで有効だろうか。バレないようにプレゼントをリサーチし、調達し、当日まで隠して娘が寝入ってから子供部屋に仕込む。苦心しつつもなかなか楽しいレクリエーションだったので、娘もきっと楽しむだろう。
そんな娘の人生に夫と自分がジジババとして登場する将来は、もしやってくるならそれもなかなか楽しそうだ。ただし、初孫に舞い上がっても七段飾りや五月人形五段飾りは贈らないと固く心に決めております。

PROFILE

有川 ひろ

高知県生まれ。2004 年、『 塩の街 』で電撃小説大賞 大賞 を受賞しデビュー。「図書館戦争」「三匹のおっさん」シリーズをはじめ、『 阪急電車 』『 植物図鑑 』『 空飛ぶ広報室 』『 明日の子供たち 』『 旅猫リポート 』『 みとりねこ 』、エッセイ『 倒れるときは前のめり 』など著書多数。

前 康輔(まえ こうすけ)

1979年広島市出身。
写真家。高校時代から写真を撮り始める。雑誌、写真集、広告などで、ポートレイトや旅の撮影などを行うほか、個展も定期的に開催。最新作は写真集『 New 過去 』。

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